NASの冷却FANが故障して起動しない — 信号ピンの折り返しによる緊急起動と代替FANへの交換
症状
業務中にNAS(I-O DATA LAN DISK HDL6-Hシリーズ)が突然停止し、電源を入れ直しても起動しない。
NAS本体が冷却FANの回転を検知できず、安全機能によって自動的にシャットダウンしている。
背面の冷却FANを確認すると、手で触れても回転しておらず、FANの故障が原因と判断した。
この記事で解決できること
NASのファイルに今すぐアクセスする必要があるにもかかわらず、FANの故障によりNASが起動しない状況で、交換用のFANが届くまでの間にNASを起動させる緊急対策を解説する。
交換用のFAN手配、FANケーブルの仕組み、メーカーへの問い合わせ結果についても記載する。
緊急対策:信号ピンの折り返しでNASを起動させる
仕組み
NASに搭載されている4線式FANには、以下の4本のケーブルがある。
| ケーブル | 機能 | 役割 |
|---|---|---|
| 赤 | +12V | FANへの電源供給 |
| 黒 | GND | FANへのグランド(接地) |
| 青 | PWM | NAS → FAN:回転速度の制御信号 |
| 白(または黄) | TACH | FAN → NAS:回転していることを知らせる信号 |
NASは、TACH信号を監視して「FANが回転しているかどうか」を判断している。
FANが故障して回転しなくなると、TACH信号が返らなくなり、NASは「冷却ができない」と判断して自動的にシャットダウンする。
この仕組みを利用して、NASから出力されるPWM信号を、そのままTACH信号としてNASに返すことで、NASに「FANが正常に回転している」と認識させることができる。
正常時と緊急対策時の信号の流れ
正常時:
NAS → 青ケーブル(PWM:回転しなさい) → FAN → 白ケーブル(TACH:回転しています) → NAS
FAN故障時:
NAS → 青ケーブル(PWM:回転しなさい) → FAN(故障) → 白ケーブル(TACH:信号なし) → NAS → シャットダウン
緊急対策(信号の折り返し):
NAS → 青ケーブル(PWM) → 折り返し → 白ケーブル(TACH:信号あり) → NAS → 起動成功
作業手順
準備するもの:
- ニッパーまたはカッター
- 絶縁テープ
手順:
- NASの電源を完全に切断し、電源ケーブルも抜く
- 青ケーブルをFANから5〜10cm離れた位置で切断する
- 白ケーブル(または黄ケーブル)も同じ位置で切断する
- 青ケーブルのNAS側と白ケーブルのNAS側の被覆を1cm程度剥く
- この2本をしっかりとねじって接続する
- 接続部分を絶縁テープでしっかり巻く
- 青ケーブルと白ケーブルのFAN側は使用しないので、被覆を剥かずにテープで個別に絶縁する
- 赤(電源)と黒(GND)のケーブルには触れないこと
- NASに電源ケーブルを接続し、電源を入れる
この作業により、NASが起動してファイルにアクセスできるようになる。
起動後にやるべきこと
1. 外部冷却を行う
FANが動作していないため、NAS本体の冷却ができない状態である。
USB扇風機や卓上扇風機でNASの背面に風を当てて、外部から冷却する。
冷却せずに長時間稼働させると、HDD やNAS本体がオーバーヒートする危険がある。
2. 重要なファイルをバックアップする
NASが起動している間に、業務に必要なファイルを別のストレージ(外付けHDD、USBメモリ、別のパソコンなど)にコピーする。
FANの故障に加えて他の故障が発生する可能性もゼロではないため、この機会にバックアップを取っておくと安心できる。
3. できるだけ早くFANを交換する
この緊急対策はあくまで一時的なものである。
外部冷却だけではNAS内部の温度管理が不十分なため、代替FANが届き次第交換すること。
代替FANの選び方
純正品が入手できない場合
NASメーカーの純正交換用FANが生産終了になっているケースがある。
その場合は、故障したFANと同じ仕様の汎用PC用FANで代替できる。
確認すべき仕様
故障したFANのラベルに記載されている情報を確認する。
| 確認項目 | 例 | 備考 |
|---|---|---|
| サイズ | 80mm × 80mm × 25mm | 縦 × 横 × 厚さ |
| 電圧 | DC 12V | ほぼすべてのPC用FANが12V |
| 電流 | 0.55A | 多少の差は許容範囲 |
| ケーブル本数 | 4本(PWM対応) | 3本のFANは回転制御ができない |
| コネクタ | 4ピン | 形状が異なる場合は加工が必要 |
電流値が完全に一致しない場合
故障したFANと代替FANの電流値が多少異なっていても問題ない。
12V FANの電流値は0.45A〜1.2A程度まで様々な製品があり、NASの電源回路はこの程度の差に対応できる。
電流値が少し高い代替FANの場合、冷却能力がわずかに向上する。
FANケーブルの仕組み
4本のケーブルの役割
4線式FAN(PWM対応FAN)の各ケーブルは、以下の役割を持っている。
電源系(2本)
- 赤(+12V):FANを回転させるための電源を供給する
- 黒(GND):電源のグランド(マイナス側)
信号系(2本)
- 青(PWM:Pulse Width Modulation):NAS側からFANに対して「どの程度の速度で回転するか」を指示する制御信号。パルス幅を変化させることで回転速度を無段階に制御する
- 白または黄(TACH:Tachometer):FAN側からNAS側に対して「現在回転している」ことを通知するフィードバック信号。FANが1回転するごとに2パルスの信号を送出する
3線式FANとの違い
3線式FANには青のPWMケーブルがなく、電圧の変化で回転速度を制御する。
4線式(PWM対応)FANは、電圧を一定に保ったままPWM信号で細かく回転制御ができるため、より静音で効率的な温度管理が可能になる。
ケーブル色はメーカーによって異なる
4線式FANのケーブル色は業界標準が存在するが、すべてのメーカーがこれに従っているわけではない。
| ピン | 標準的な色 | 機能 |
|---|---|---|
| 1 | 黒 | GND |
| 2 | 黄 | +12V |
| 3 | 緑 | TACH |
| 4 | 青 | PWM |
上記は一般的な例だが、メーカーによって赤=+12V・黒=GND・黄=TACH・青=PWMの組み合わせもあれば、白=TACH・青=PWM・赤=+12V・黒=GNDの組み合わせもある。
代替FANを取り付ける際は、ケーブルの色ではなく、コネクタのピン配置で対応関係を確認すること。
コネクタのピン配置の確認方法
FANのコネクタには「1」の刻印やマーク(切り欠き、三角マークなど)がある場合がある。
ピン番号と機能の対応はFANの仕様書やデータシートで確認できる。
同じ製品名で購入したFANであっても、製造ロットや仕入れ先の違いにより、ケーブルの色やコネクタの形状が異なる場合がある。
色だけで判断せず、必ずピン配置を確認すること。
コネクタの形状がNAS側と異なる場合は、ケーブルを切断して直接はんだ付け・圧着で接続するか、変換ケーブルを自作して対応する。
メーカーへの問い合わせ結果
NASメーカー(I-O DATA)に交換用FANの入手方法を問い合わせた結果は以下のとおりだった。
| 問い合わせ内容 | メーカー回答 |
|---|---|
| 純正交換用FAN(HDL-H-FAN)の入手方法 | 生産終了、販売なし |
| 代替品の有無 | NAS本体が生産終了のため代替品もなし |
| 修理対応 | 修理センターでの有償修理は対応可能 |
メーカーからは、修理センターにNAS本体を送付すれば有償でFAN交換修理を受け付けるとの回答があった。
修理に出す場合は、NAS本体のみを送付し、内蔵HDDはすべて取り外して手元に保管する。
検査は無料で、検査後に見積りが提示され、了承すれば修理に進む。キャンセルも可能である。
また、メーカーからはHDD製品は使用期間5年を経過すると故障リスクが上昇するため、NASの買い替えの検討も提案された。
修理に出す場合の注意点
修理に出す間はNASが使えなくなるため、業務への影響を考慮する必要がある。
NASに保存されているデータは事前にバックアップしておくこと。
有償修理の見積りはサポートセンターでは案内できず、修理センターに製品を送付してから検査後に提示される。
修理費用が想定を超える場合は、検査段階でキャンセルすることも可能である。
後日談
FANの交換
代替FANへの交換は成功し、NASは正常に稼働するようになった。
ただし、購入した代替FANは純正FANよりも動作音が大きく、静かなオフィス環境では気になるレベルだった。
代替FANを選ぶ際は、回転数だけでなくノイズレベル(dBA)も確認しておくと良い。
静音性を重視する場合は、Noctua などの静音FANメーカーの製品を検討する価値がある。
3か月後のUSBポート故障
FAN故障から約3か月後、同じNASのフロントUSBポートが認識しなくなった。
FAN故障の時点ですでにNASの経年劣化が進んでいた可能性があり、FAN故障は買い替えを検討すべきサインだったのかもしれない。
最終的にNASを新しい機種に買い替えた。
メーカーの回答にもあったとおり、使用期間5年を超えたNASは複数の部品が同時期に寿命を迎えるリスクがある。
FAN故障が発生した時点で、NASの更新計画を立て始めることを推奨する。
まとめ
NASの冷却FANが故障して起動しない場合、PWM信号ケーブルとTACH信号ケーブルを切断して折り返すことで、FANが正常に動作しているとNASに認識させ、緊急的に起動させることができる。
この方法はあくまで緊急対策であり、起動後は外部冷却を行いながら、できるだけ早く代替FANに交換する必要がある。
純正FANが生産終了の場合でも、同じサイズ・電圧・線数の汎用PC用FANで代替できる。
電流値が多少異なっていても問題ない。
FAN故障はNASの経年劣化のサインでもあるため、修理と並行してNASの更新計画を検討しておくことが望ましい。